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世界の神話
目次
- 人間創造と失楽園
- ノアの洪水
- 巨人オグ
- アユブの苦悩
- 賢人ロクマン
- イブラヒムとニムルード王
- 神の試みと魔の手
- 土地買いの奇計
- 白砂と穀物
- 子山羊の返却
- 死の天使
- 税金奇譯
- 生命の樹の枝
- 命取りの寝台
- 岩屋の計略
- 王者の貸仕事
- 誘惑の試し
- 雄鳩の空威張り
- 破壊の樹
- 動かぬ床石
- 洞穴の老人
- 聖ジョージの竜退治
- 怪しい老人
- 間違いの真相
- 王の落馬
- 不運な詩人
- 不思議な矢の行方
- 百年の眠り
- 皿の使い分け
- 計算違い
- 釘のたたり
- 子を産む皿
- キリストに打つ釘
- さまよえるユダヤ人(その一)
- さまよえるユダヤ人(その二)
天使・悪魔
| 名前 | 概要 |
| ガブリエル | |
| イブリス | |
| アズラエル | 死の天使(عزرائيل) |
人種
人名
| 名前 | 概要 |
| アダム | |
| リリス | ユダヤ人はリリスと呼び、アラビア人はエル・カリネーと呼ぶ。 |
| イブ | |
| イドリス | エノクのこと |
| ノア | |
| ワイレー | ノアの妻 |
| カナーン | カナン。ノアの息子 |
| オグ | ノアの息子。バシャンの王(申3:1) |
| オザイル | エレミアのこと |
| アユブ | ヨブのこと |
| ムーサ | モーセのこと |
| ロクマン | エル・ハキム・ロクマン(イスラーム教)エル・ハキム・リスト(キリスト教) |
| 予言者デヴィッド | |
| イブラヒム | アブラハムのこと |
| ニムルード | クーサの王(クシュの王ニムロドのこと) |
| アザル | イブラヒムの父 |
| イスマイン | イシュマエル |
| ハブルーン | ヘブロンの長 |
| セス | セト |
| ヒラム | ソロモンの神殿を建てた建築家 |
| ベルギス | シェバの女王 |
| ダウド | ダビデ王のこと |
| ハルン | アロンのこと |
| ウリヤ | ダビデに妻をだまし取られ殺された人 |
| バテシバ | ウリヤの妻ダビデにとられる |
| ジャン | 悪い精霊 |
| スライマーン | ソロモン |
| エル・クードル | 常緑の者青春の泉を見出した者、予言者エリヤ、聖ジョージと同一視される |
| チャプリン博士 | |
| 聖ジョージ | 悪竜退治をした人 |
| トレミ・フィロパトル王 | エジプトの王者 |
| シモン | オニアスの子、ゼルバベルの時代とマカビーの子たちの時代の間に住んでいた |
| ユリア・サビナ | ローマ貴族の女 |
| ガランチ | シモンに雨を降らせてもらった人 |
| ユダ・ハ・レヴィ | |
| 聖ジョン | ヨハネ |
| ヨーハ | |
| アナニアス | |
| カルタフィラス | |
動物
| 名前 |
| 祝福された驢馬 |
| 楽園の蛇 |
| イブラヒムを処罰するためにニムルードに使われた騾馬 |
| イブラヒムを助けなかった山羊 |
| イブラヒムを助けた羊 |
| スライマーンに頼まれて曲がりくねった孔の開いた数珠玉に糸を通した虫 |
| エレミアが百年眠ったときに生き返った驢馬 |
植物
| 名前 | 概要 |
| エル・カールブ | ,td>破壊を意味する。スライマーンの業績を壊すことに役立つという
地名・山・河
| 名前 | 概要 |
| 地名 |
| セレンディブ | セイロン |
| ジダー | |
| アカバー | |
| イスファハン | |
| メッカ | |
| ダマスカス | |
| バニアス | |
| ハウラン | |
| ヘブロン | |
| マクペラ | |
| シェバ | |
| パレスチナ | |
| シリアのジャファ | |
| トレド | |
| ラムレ | |
| エルエデミエ | |
| 山・建物 |
| アラファット山 | 認めの山 |
| アララト山 | |
| ヘルモン山 | |
| レバノン山脈 | |
| カルメル山 | |
| エル・クードルの殿堂 | ソロモンの池の北一マイル、カルメル山の北側の斜面など |
| 十字軍人教会 | |
| ケドロンの谷間 | |
| 河川・泉・池 |
| メロム湖 | フラ湖 |
| ヨルダン河 | |
| ケドロンの急流 | |
| チベリアス海 | |
| ソロモンの池 | |
| 青春の泉 | 地中海と紅海の出会っている所にある |
人間創造と失楽園
神が様々の土を採って最初の人アダムを造った。神はアダムを造ると大地の上に横たえた。アダムは人形のように動かず四十日間地面に倒れたままにしていた。
神は天使たちを呼び寄せて、アダムが動くようにするから、動き出したら大事に崇め尊ぶようにいった。
アダムの鼻の孔から息を吹き込むと、生命が体中に入って活きて動くようになった。天使たちはみんなこれを崇め尊んだがイブリスだけは傲然と構えていた。
神はそれを見てなぜアダムを尊ばないのかと責めた。イブリスはたかが土からできたものに頭を下げたくはないと答えた。
これを聞いて神は非常に怒りイブリスを楽園から追い出した。
イブリスはアダムを恨んで魔王サタンとなってアダムの子孫である人間に復讐をするようになった。
神はアダムを男女両性にこしらえたので体の半分は男で、他の半分は女であった。やがて二つに分かれて男と女になった。男はアダムと呼ばれ、女はリリス(エル・カリネー)と呼ばれた。
二人は神によって夫婦となったが仲が良くなかった。アダムがリリスに言うことに服従するようにいうとリリスは男も女も同じ土からできたから命令に従わないといった。
これに神は怒りリリスを楽園から追放した。リリスは先に楽園から追い出されたイブリスの許に行き妻となった。二人の間に悪魔が生まれて永遠に人間の敵となった。
リリスを追放したのでアダムのためにもう一人女を造った。女はアダムと同じように土で造ってはまたアダムに背くと考えたので今度はアダムを眠らせてその間にアダムの肋骨を引き抜き女を造った。
この女がエバで二人は夫婦となった。エバはよくアダムの言うことを聞いたので二人は楽園の中で楽しい月日を送った。
それを見たイブリスは楽園に忍び込み一匹の蛇の牙に開いている空洞に入り込んだ。そして蛇の口を借りてエバに小麦を食べるようにいった。
エバは驚いて小麦は神から禁制とされているといった。しかし蛇がしつこく勧めたのでエバはその気になって食べてみると、非常にいい味がするのでアダムを説き伏せて食べさせた。
神はすぐにそれを知りアダムとエバとイブリスと蛇とを楽園から追い出した。
アダムは楽園から出るときに、神の目を盗んで一つの鉄床と二本の火箸と二つの槌と一本の針とを持ち出した。
アダムは「後悔の門」から、エバは「哀憐の門」から、イブリスは「呪いの門」から、蛇は「災いの門」から追い出された。
アダムはセレンディブ、エバはジダー、イブリスはアカバー、蛇はペルシアのイスファハンに降りた。
こうしてアダムとエバは永い間離れ離れになって暮らしたが、二百年経ってから、メッカの近くに聳えている認めの山「アラファット山」で再会することになった。
アダムは楽園で犯した罪を心から悔いていたので、天使ガブリエルがアラファット山に導いてエバを見つけさせた。
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ノアの洪水
ノアはイドリスの孫で、イドリスは人間のうちで初めてペンを使って神の啓示に関する書物を三十巻程書いた。また天文学やその他の科学についても、多くの書物を記したがそれらの書物はみな失って今はもうない。
ノアは書物は記さなかったが世界で最も偉いと讃えられた六人の予言者の一人であった。彼は妻のワイレーと一緒にダマスカスに住んでいた。
あるとき神がノアの所に現れ、人間が神を信じないため洪水を起こす。これが嫌ならば悔い改めるようにといった。そしてノアは神を信じていたので命を助けることにしあらかじめ箱舟を造るようにいった。
ノアはこれを聞いて人々に伝えた。しかし人々は信じず罵り嘲り、果てはノアを殴りつけた。さらにはノアの家族のものもみんな神を蔑ろにし、ノアの妻ワイレー、その子カナーン、カナーンの子オグはみなノアを笑い罵り気違い呼ばわりをし、人々に言いふらした。
ノアは悲しみ嘆きながら箱舟を造った。箱舟が出来上がった頃、ダマスカスの地下の竈から、突然水が噴き出した。水は凄まじい勢いで大地に溢れた。
ノアはワイレー、カナーン、オグなどを除いて信心深い親類や知り合いなどと一緒に箱舟に乗り込んだ。ノアは神の教えに従っていろんな動物も乗せた。
ノアが驢馬を箱舟に入れようとしていると、イブリスが蠅に姿を変えて驢馬の尻尾の下に隠れた。驢馬はイブリスが船の中に入っては申し訳がないと思いどうしても箱舟に入らなかった。
ノアは言うことを聞かない驢馬を殴りつけて船の中に乗せた。神は驢馬の不幸を気の毒に思って、驢馬の子孫を天国に入れるようにした。
後にオザイルの驢馬が楽園に入ることになったのは、このためである。
洪水は激しくなり神を信じない人間どもは溺れ死んでしまった。ただ、ノアの箱舟に乗り込んだ者とオグだけが助かった。
箱舟はあちこちに流されて、メッカの地まで来たそこに七日間じっと留まっていた。それから再び動き出して、ゼルサレムの地に着き箱舟は箱舟は神の力により言葉を発して、ノアにこの地に聖殿を建てて、予言者やノアの子孫にこれを守るように告げた。
ノアは言われた通りに洪水が退くのを待ってゼルサレムに聖殿を建てて、皆で守った。
ノアに一人娘があった。母のワイレーが溺れ死んだので代わりに家のことを世話していた。娘はノアを気の毒に思い一生懸命に家事にいそしんだ。
ある日一人の男が、ノアを訪ねてきて娘を嫁にしたいと申し込んだ。ノアは娘にふさわしいような家をこしらえることができたら差し上げると答えた。
男はその条件を承知して日数を予約して帰って行った。しかし約束の日が来ても男は現れずノアは同じ条件で他の男に娘を嫁がせることにした。
しかしこの男も定めた日までに現れずノアはさらに他の男に娘をやるという約束をしてしまった。
三番目の男は約束通りに家をこしらえたのでノアは娘と結婚させることにした。婚姻式が済み二人はノアに別れを告げて新たに設けられた家に出かけて行った。
すぐその後に二番目の男が家が出来上がったと言って訪ねてきた。ノアは男を落胆させるのが気の毒だと思い、神の名を呼んで一匹の驢馬を娘そっくりの姿に変えて男と結婚させた。
男は喜んでその乙女を連れて帰った。それから間もなく最初の男がやってきて同様に娘を求めた。ノアは仕方がなく一匹の牡犬を娘そのままの姿にしてこれに与えることにした。
こうして世界に三通りの女があるようになった。第一種の女はノアの娘の子孫で神を敬い真心込めて自分の夫を助ける。第二種の女は驢馬の子孫で愚かな怠け者ばかり。第三種の女は犬の子孫で無暗にすばしこくて利口ぶっていつも夫に口答えばかりする。
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巨人オグ
巨人オグは雲つくような大男で洪水がどんなに高まってきても平気だった。洪水が高い山を埋め尽くしてもオグの踝程の高さであった。
オグはノア達が箱舟で逃げて行くのを見て箱舟をつかんでひっくり返そうとしたが箱舟に松脂が塗ってあり掴もうとするたび手からすり抜け掴めなかった。
オグはあきらめて箱舟を離れて立ち去った。洪水が退いてしまってから幾百年の間生きていた。あるとき彼はヘルモン山を越えてレバノン山脈に出ようとしたが、足を踏み損ねて海の中に渡り込んだ。
またある時はひどい熱病にかかって、大地に寝転んだが、身体が大きくて頭はバニアスにあり足はメロム湖まで延びていた。
彼が寝ていると大勢の男が騾馬を追ってバニアスを通りかかった。オグは頭を挙げて足を蚊が刺しているためメロム湖に着いたら追い払ってもらうよう頼んだ。
男たちは承知して、幾日か過ぎてメロム湖に着いてみるとたくさんの豺が足に群がって一生懸命肉をかじっていた。男たちは驚き巨人の体の大きさに感心した。
オグはイスラエル人たちが神を信ずるのを憎んで皆殺しにしようと考え途方もなく大きな岩を持ち上げてイスラエル人が野営しているところに歩み寄ってきた。神はそれを見て、一羽の鳥に穴を開けさせた。
岩はオグの頭から肩の上に落ちかかったので目がふさがった。ムーサはそれを見つけて飛び上がりオグの踝を杖で叩いた。巨人は大地に倒れ岩が上に落ちて押しつぶしてしまった。
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アユブの苦悩
昔アユブという男がいて、家族が多く金持ちで、神を敬う心が篤かった。神はアユブの信心を試すため莫大な富を失わせた。アユブはたちまち貧しくなったがそれがために決して神を恨むことはなかった。
神はさらにアユブの子供たちを死なせた。アユブは嘆き悲しんだが、神に怨みを言わなかった。神はさらにアユブを悪い病にかからせた。体中の皮膚が腫物に覆われて膿み爛れて悪臭を放ったが神を讃え感謝し続けていた。
アユブの妻も、夫に劣らぬ良い女だった。彼女は真心こめて夫を介抱し、彼女は夫を養うためいろんな仕事をした。仕事が見つからないときには夫を背負って家から家へと物乞いをして歩き回った。
恨みがましいことは一言も漏らさないで夫に仕え七年経った。イブリスはそれを見てアユブの居ない間に彼女に近づき、イブリスを崇め尊んだらアユブの病気を直し富をも取り返すと説きたてた。
さすがの彼女も心が動いて夫の所に行ってイブリスが訪ねてきたこと、彼が言ったことを話しイブリスを信じさせてもらえるよう、アユブに願った。
これを聞いてアユブは烈火のように怒りだして悪魔と口を利き崇め尊ぼうとするような女は病気を神がなおしたら笞で百回叩こうと考えた。
そして天を仰いで悪いものの惑わしから救い憐れんでくださいと祈った。神はその心根を憐れんで大天使ガブリエルを大地におろした。
ガブリエルがアユブの側にやってきてその手を取って起こすとアユブの足元から澄みきった泉が噴き出した。ガブリエルは水を飲むように勧めた。
アユブが水を飲むと体中の膿み爛れた所に潜んでいた虫がことごとく落ち去った。ガブリエルは今度は泉に浸かるように言った。
アユブはすぐに清らかな泉に浸かった。すると腐れ果てていた皮膚や肉が元通りになり麗しく健やかな体となった。
アユブの信心深いことを知った神はそれだけではなく死んだ子供たちをことごとく生き返らせて妻をいままでよりも若く元気にしてやった。
若やいだ妻はそれから二十六人の男の子を生んだ。神はアユブがこれらの大勢を豊かに養って行けるように富を償うために二片の雲を空に浮かべて雲はアユブの家に黄金白銀を雨のように降らせた。
神の厚い恵みに浴したアユブは、かつて腹立ちまぎれに妻を百笞叩くと誓ったことが心から悔やまれて来た。しかし誓いを破ることはできず困っているとガブリエルは現れて、助言をした。
アユブは非常に喜んですぐにガブリエルに教わった通りに百枚の葉をつけた棕櫚の枝を探して、それで妻をそっと一つ叩いた。百枚の葉がかの女の体に触れたので、一叩きが百叩きに相当したのである。
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賢人ロクマン
アユブの親族にロクマンという、顔色が真っ黒で唇が厚くて、足曲がりで、二目と見れる醜男がいた。
神はロクマンがあまりに醜く生まれついたのを憐れんであるとき予言の力と知恵のどちらか一方を与えると言った。
ロクマンは暫く考えて知恵を選んだ。こうしてロクマンは世界一の知恵者となった。予言者デヴィッドは彼を賢さを気に入りイスラエルの王者になってもらいたいと頼んだがロクマンは面倒な役につくのが嫌で一平民に甘んじていた。
ベズー族がハウランの地に侵入してきて、散々に荒らしまわったときロクマンは捕えられて、奴隷として売り飛ばされた。
ロクマンを買い取った主人がある日苦瓜を彼に与えたが、苦瓜はとても苦くて食べられるものではなく主人はロクマンが苦瓜を食べられず苦しむところを笑ってやろうと思っただけだった。
しかしロクマンは主人の手から苦瓜を受け取り旨そうに食べた。主人は驚きどうしてそんな嫌なものを食べたのか尋ねた。ロクマンは笑って「絶えずいい事ばかりしてくださるお方のために、一度くらい嫌なものをいただくのは当たり前ですよ」と答えた。
主人はこの利口な返答に機嫌を良くしてロクマンを自由な身にしてくれた。
あるとき一人の金持ちの男が病気にかかり名高い医者に診てもらったが生物が体に入り心臓を摑んでいるためどうしようもできずにいた。生物は医者が言うには黄瓜畑で寝込むと蛇が口から体に這いこむから蛇だろうと言うことだった。
男は途方に暮れて知恵者で名高いロクマンに泣きついた。ロクマンは病気の様子を見て、病気を治すには非常に危険な手術を行う必要があると気の毒そうに言った。男はこのままにしていては死ぬだろうと思い手術を頼むことにした。
ロクマンは万一手術がうまくいかなかった場合に苦情がでないようにしてほしいと言い、金持ちの男は親類や役人を呼びその面前で手術のために死んでも一切苦情を言わぬ旨の書面を認め封をした。
ロクマンは多くの医者を呼んで手術の手伝いを頼んだが自分の妹の息子は呼ばないことにした。その若者はロクマンも一目置くほど医術に長けていて手術の際に指図をすると思ったからである。
しかしその若者はどうしても珍しい手術が見たくて金持ちの家の屋根によじ登りそっと病室を覗き込んでいた。それを知らずにロクマンは病人に麻酔剤をかけて眠らせて、腹を切ると一匹の大きな蟹が双の鋏で心臓をつかんでいた。
ロクマンは弱って側にいる医者たちに良い手段があれば教えて欲しいと言ったが、医者たちはみないい考えはないと言った。すると屋根の上で声がして、火を使えばいいと言った。
これを聞くとロクマンはいい方法を思いつき、医者たちに鉄の焼串と火鉢と綿を用意させた。それから火鉢に火を起こし焼串をその中に差し込んで、一人の医者は綿で二つの小さい布をこしらえた。
焼串が焼けるとロクマンはそれを蟹の鋏に押し当て蟹が心臓から鋏を放すと付添いの医者が綿の布を巻きつけた両の鋏を心臓から放し終えるとロクマンはあまりの嬉しさにうっかりして銀の匙で心臓の傷口を洗い清めようとした。
すると屋根の上から声がして、人間の心臓に金物をあててはいけないといった。ロクマンは気が付いて、綿を丸めて傷口を浄めた。それから傷に膏薬を塗って傷口を縫い合わせた。
金持ちの男はすっかり病気が治って永い間健やかに生き続けた。
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イブラヒムとニムルード王
クーサの王者ニムルードは生まれつき非常に尊大で傲慢で神を信じなかった。彼は口癖のように神を信じずに自分を神として崇めるように言っていた。
あるときニムルードは夢を見て占師に占わせたところ偉い予言者が生まれて、偶像を壊し王の身の破滅を企てる前兆と言われた。これを聞いて王は心を痛めて国中の人を呼び集めて男の赤子のあるものはその子を殺すように言いつけた。
人々はこれを聞いて嘆き悲しんだが、王から暴虐を受けることを恐れ従った。ニムルードはそれでも安心できず家来達に言いつけて産期に近付いた女を厳しく見張り男児を産めば殺させることにした。
ニムルードが警戒していたにもかかわらず、アザルという男の妻が誰も気が付かない間に男児を出産した。産気づくと幾人かの天使がアザルの家に現れて妻を導き洞穴の中に連れ込んだ。
彼女は神の恵みにより出産した。体が丈夫になると赤子を天使の手に任せて自分だけ何事もないような顔をして家に帰った。
アザルは日頃ニムルードの側に出仕して家にいなかったので永い間子供が生まれたことを知らなかった。妻はアザルの目を盗んで二三日おきに洞穴を訪れたが、そのたびに子供がすくすくと育ち驚かされた。
ある日彼女が洞穴の中に入ると子供は地面に座って自分の手の指を嘗めていた。彼女は驚き怪しんで子供の手をとって見ると指から乳、蜜、バター、水が迸っていた。
こうして男の子は育ち十五か月たつと立派に何事でも話すことができるようになった。彼は知恵の鋭い子で母に自分の主人を聞いた。母は自分と答えたが続いて母の主人を尋ねた。
母は子供の父と答えたが、さらに父の主人を尋ねた。母はニムルード王と答えたがまたしてもニムルード王の主人を尋ねてきた。母は驚き子供の口の辺りを叩き諫めた。
しかし子供が賢いのが嬉しくて、誇らしくて堪らないので、アザルに話すとアザルは驚き喜んですぐに洞穴に駆けつけた。そして子供に自分の子供であるかと聞くと子供はそうだと答えた。
そしてまた母にした質問を立て続けにアザルに問い、また口のあたりを叩かれた。
子供はイブラヒムという名をあたえられた。ある夕方、イブラヒムが洞穴から出てみたいと言い出したため外へ連れて出ると、初めて世界を見たイブラヒムは神の手の創造に心から驚いた
そして、自分を造り育てあらゆるものを与えられた神を賛美しその他の者は自分の主ではないといった。そして空を仰ぐと一つの星がきらめいていたので自分の主と呼んだ。
しかし星は見ているうちに西に傾いて見えなくなった。イブラヒムは変わっていくものを好まないと星は自分の主になりえないと言った。
すると満月が空に昇ったのでこれこそ確かに自分の主だと言い、月を眺めていると月は西に沈んでしまった。イブラヒムは心を痛めて自分の間違いをただし月は自分の主ではないと言った。
やがて東が赤らんで、太陽が現れたためイブラヒムは喜んでこれこそ自分の主だと呼んだ。しかし時が経ち太陽もまた西に傾き物がみな長い影を地に写しやがて暗い夜が来た。
イブラヒムはがっかりしてまたもや勘違いであったことを嘆き星も月も太陽も自分の主でないと言った。
そして悩みながら偉大な不変者の姿をしもべである自分に示して導き過ちから救ってもらえるよう祈った。
神はイブラヒムの祈りを聞き入れて、ガブリエルを遣って彼に真理を教えさせた。
イブラヒムは十歳になると、方々を歩き廻って人々に偶像を敬わず神のみを敬うように教えた。
ある日イブラヒムが寺院の中に偶像が並んでいたのを見て斧で叩き壊し一番大きな偶像の膝に斧を載せて立ち去った。
お坊さんたちがやって来て偶像が壊れているのを見て驚き騒いでいるうちにイブラヒムに偶像を壊したかと詰った。
イブラヒムは偶像がお互いに争い一番大きな偶像が斧で叩き壊したと答えた。お坊さんはそんなはずはないと罵ったが、イブラヒムはそれくらいのことができないようでは神様ではない。これが偶像が神でないことを立証していると言った。
お坊さんは詰まったが口惜しくてニムルード王に訴えた。ニムルードは怒り大きな炉を造り火をもやし家来にイブラヒムを投げ込むよう命じ、家来がイブラヒムを連れてきたが火が強くて近寄れなかった。
困っている家来にイブリスが一つの機械をこしらえて家来たちは機械を使ってイブラヒムを縛り火の中に入れた。ニムルードはイブラヒムが焦げてしまうと思っていたが、神の助けによって泉に潤された薔薇の園のように気持ちが良かった。
イブラヒムは暫くそこに座り込んだ後出てきた。ニムルードはなぜ助かった野か尋ねた。イブラヒムは神の力によってと答えた。ニムルードは驚きそんなに偉い者が世界にいるならば自分と親しくするか、神を殺すしかないと叫んだ。
ニムルードは高い塔を築かせてその上から天国の神を見ようという考えだった。工事は進み七十階に達した。一階の高さは十五丈余であった。
神は塔がだんだんと大空に近づいてくるのを見ると働いている人の言葉をかき乱して皆ばらばらの言葉を話だし同じ時に同じ場所で七十三の言葉が現れたので混乱して仕事をやめてしまった。
だからこの塔を混乱という意味のバベルの塔という。塔を大空まで建てる事に失敗したニムルードは今度は飛行機を造った。造りは大きな箱の四隅に一羽ずつ鷲をしばりつけて箱の真ん中に棒を立て棒の先に生肉の大きな塊をつけたものだった。
支度ができるとニムルードは一人の射手と一緒に乗り込み箱は大地を離れて空高くまで浮かんで行った。大地が見えなくなったところで射手にあらかじめ血潮のついた矢を放つようにいい天に向けて放たせた。矢が尽きると棒を箱のそこにさかさまに突き刺した。箱は下って大地についた。
ニムルード王を待っていた家来は天国に着いたか尋ねた。ニムルードは矢が飛んでこなかったか聞いた。家来は血の付いた矢がいくつも飛んで来たと答えたのでニムルードは得意そうな顔をして天国に着いてイブラヒムの神を射殺したので自分が神であることがわかっただろうと言った。
家来たちはイブラヒムが火の中でも平気であるのを見てニムルードは神でないと疑い始めていたのでこれを聞いてニムルードを信じてイブラヒムの言うのは神ではないとささやきだした。
これを耳にしたニムルードは得意になった。神はニムルードの傲り高ぶった心を憎んで一匹の蚋を大地におろした。蚋はニムルードの側に飛んできて、王の鼻孔にはいり脳の内にもぐり込んだ。
脳みそを蚋に刺されて苦しみ、気違いのようになって一人の男に言いつけて、鉄の槌で絶えず自分の頭を殴らせていた。ニムルードはますますイブラヒムがにくくなり、彼を殺そうとしたが神に助けられているので手がつけられなかった。
それを見て人々は次第にニムルードから離れてイブラヒムの説くところに耳を傾けだした。ニムルードは堪り兼ねてイブラヒムを国の外に追い払ったがしばらくして捕まえておかなければ逆効果だと思い返して兵士にその後を追わせた。
兵士たちは騾馬に跨って追った。イブラヒムは驢馬に乗って国を出たが追手に気づくと驢馬から飛び降りて一生懸命に駆け出した。
暫くかけていると一群の山羊に出会ったのでイブラヒムは山羊に守ってくれと頼んだ。しかし山羊は頭を振ってそれはできないと答えた。
イブラヒムはまた駆け出して暫くすると一群の羊に出会った。イブラヒムは羊に守ってくれと頼んだ。羊は匿うといいイブラヒムを地べたに腹這いにしてその周りに集まって居たので兵士たちは気づかず通り過ぎた。
神は山羊がイブラヒムの頼みを聞かなかった罰に短くて醜い尻尾を与えた。それから騾馬もイブラヒムを焼き殺す薪を運んだり兵士を乗せて追わせた罰に子を産まないようにされた。
羊はイブラヒムの願いを聞き入れて快くかくまったので褒美に幅が広くて見事な尻尾を授かった。
だから今日でも東の国の羊は立派な尾をもっている。ニムルード王は蚋のために二百年悩まされ続け、とうとう惨めな最後を遂げた。
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神の試みと魔の手
ニムルードから逃れたイブラヒムはエジプトに行きさらにメッカに渡ってそこで神から聖殿を作るように命じられた。
聖殿ができると神はイブラヒムに息子のイスマインをアラファット山で生贄に捧げるように言った。
イブラヒムはイスマインを愛していたので、つらかった。しかしイブラヒムは謹んで従うことを決心した。これを知ったイブリスは妻に神の言いつけとはいえ自分の子を犠牲にするのはおかしいと説き伏せて止めさせようとした。
しかし妻はイブリスの誘いに乗らなかった。魔王はなおも説き伏せようとしたが彼女は大きな石を抱えてイブリスに投げつけた。イブリスは身をかわしたので当たらなかったがその権幕に驚き消え失せた。
イブラヒムはイスマインを連れてアラファト山にのぼると神の声がしてイブラヒムの信仰の篤いことを認め息子を殺すことはやめるようにいった。イブラヒムは息子の代わりに羊を犠牲に捧げ感謝の念に満ちて山を下りた。
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土地買いの奇計
イブラヒムはヘブロンの地を手に入れようと思った。そのころヘブロンにはハブルーンという男が長としていた。
イブラヒムはハブルーンの家を訪れて、土地を買いたいといった。ハブルーンは少しくらいなら売っても良いとどれくらい必要か訊ねた。イブラヒムは自分の着ている羊皮のジャケットを切り裂いてそれで囲めるくらいと答えた。
ハブルーンは笑ってそれくらいなら売ってよいと言い、土地の値段として四百粒の一粒ごとに違ったサルタンの印のついた金貨を要求した。
イブラヒムはこれを持っていなかったので困って考え、これを承知しその前に神に祈ることを許してもらった。
イブラヒムは羊皮のジャケットを脱いで大地に広げ敷物として神に必要な品を求め祈った。そしてジャケットをめくると下に四つの袋が横たわっていた。開けると百粒ずつの違ったサルタンの刻印の金貨が入っていた。
イブラヒムは四十人の立会人を集め、彼らの見ているところで金貨をハブルーンに渡して、それからジャケットを小さく刻み始めた。ハブルーンは始めは笑っていたが細い皮の筋が思いもよらぬ程たくさん出来上がり想像以上の土地を譲る羽目になった。
そこで慌てだしてそんなに切り刻むのは約束外だと叫んだ。イブラヒムはこれを聞くと四十人の立会人に皮を切り刻むことは始めから約束していたことを保証してほしいと言った。
立会人たちは確かに約束のうちに含まれていたと証言した。ハブルーンはこんなに細く切り砕くのは怪しからぬといったが立会人はどれくらいの程度に切り刻むという約束はなかったと言った。
ハブルーンはイブラヒムに広大な土地を与えなくてはならなくなった。彼はすっかり腹を立てて四十人の立会人を縛り上げて町の西南にある高い丘の上に引っ張って行き一人残らず首を刎ねた。その首は急な坂道を転がりながらジャケットを切り刻むのは約束のうちであったと叫んだ。
イブラヒムは四十人の死体を懇ろに葬ってやった。
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白砂と穀物
イブラヒムは口癖のように一文も持たずにニムルードの領土から逃げ出した貧乏者で今のように生活ができるのは神の恵でそのお礼として人間に親切を尽くさなくてはいけないといっていた。
イブラヒムは大きな広間にテーブルを備えてそれにいつでも食べられるように食事の用意をしていた。さらには新しく仕立てた着物もたくさん並べてあった。
通りすがりの人々で腹の空いたもの、着物が汚れたものは自由にそれを自分のものとすることができる。イブラヒム自身も食事をしたためる時刻になると家を出て歩き回り食卓をともにするものを探し求めた。
ある都市イブラヒムの住んでいる土地に恐ろしい飢饉が起こり、下僕たちにエジプトの友人のところへ行き穀物を送るよう頼み遣わした。下僕たちはすぐにエジプトへ渡りイブラヒムの友人の家を訪ねて訳を話した。
その男はイブラヒムは神の友で自分と異なるものを信じているのでこの機にイブラヒムを破滅させようと考えた。イブラヒムと家族だけのためなら喜んで穀物を送るが彼がならず者や浮浪者に食べさせるのでそのためには穀物は渡さないと答えた。
下僕たちは遥々遠くの国まで訪ねて空手で引き返すのが恥ずかしく心苦しかったので持ってきた袋に白い砂を詰めて帰った。イブラヒムにエジプトの友人の返事を伝えると友人の卑しい行いを悲しがった。
そして長い間考えているうちに眠りについた。そこへ妻のサラがやって来て、何気なく袋を開けると、見事な麦の粉が一杯入っていた。
イブラヒムはサラが小麦と言ってみているものが白砂であると言ったがサラが袋から取り出して見せると確かに小麦でイブラヒムは神が自分を助けてくださったことを悟って熱心に感謝の祈りを捧げた。
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子山羊の返却
ある日イブラヒムは自分の家であるテントを出て羊の群れを見回っていた。いつもたくさんの羊を飼っている牧場に不思議と一匹も羊がいなかった。
辺りを見回していると、一人のアラビア人がやって来て、羊の群れを探しているのでしょうと尋ねた。イブラヒムが頷くと、アラビア人は羊がここの草に飽きて離れたところにある牧場に移った、ひとまず自分のテントで休むよう勧めた。
イブラヒムはそれに応じてテントの中に入り込んでアラビア人は一匹の子山羊を殺してイブラヒムをもてなした。イブラヒムは熱くお礼を言って帰った。
それから数週間後イブラヒムは用事がありたびに出かけた。するとまた例のアラビア人に出会い自分の羊が今どこにいるだろうかと尋ねると、子山羊を殺したところから北に行ったところにいると答えた。
イブラヒムは何も言わずそこを通り過ぎた。しばらくたってイブラヒムは三度目の旅に出た。するとまた例のアラビア人に出会ったのでいつものように自分の羊がどこにいるか尋ねた。
アラビア人は自分がわざわざイブラヒムのために子山羊を殺したところから南にいったところにいると答えた。イブラヒムは何も言わずにそこを通り過ぎた。
それからまたしばらくたって、イブラヒムが四度目の旅に出るとまたもアラビア人が現れて、まだ羊を探しているのか、自分が大事にしていた子山羊を殺してご馳走したところから東に行ったところにいるといった。
あまりにも子山羊のことを言って恩着せがましいのでイブラヒムは機嫌を悪くして、子山羊を殺したことを恩に着せ、ご馳走になってありがたいと思っていてもたびたび子山羊のことを言われると喉につっかえるので子山羊が惜しいなら返すと言った。
そして大地に跪いて、神に子山羊を吐き出させてくれるように祈った。神はすぐにイブラヒムの祈りを聞き祈り終わらないうちに子山羊がイブラヒムの口から飛び出して来た。
イブラヒムはそれを指して確かに返したから受け取って、物惜しみをするなら以後他人にご馳走をするのはやめた方がいいと言ってそのまま歩き去った。
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死の天使
ある日一人のみすぼらしい老人がよろめきながらイブラヒムのテントの方に歩いてきた。イブラヒムはそれを見つけると一人下僕に手助けをしてここに伴うようにいった。
下僕が老人を連れてくるとイブラヒムは戸口まで迎え出て老人にご馳走を与えた。老人はお礼を言って食べ始めたが、不思議なことには食えば食うほど体が弱り、果ては食物を自分の口にもって行くだけの力もなくなった。
様子を見ていたイブラヒムは堪り兼ねて体の具合を尋ねた。老司名はどこも悪くはなく単に年齢のせいだと答えた。
イブラヒムは老人に年を尋ねると老人はイブラヒムよりも二歳だけ年上であるに過ぎなかった。イブラヒムは驚き嘆いて自分も二年したら老人のように体が弱り果てるのか尋ねた。老人はもちろんと平気な顔で答えた。
これを聞くとイブラヒムはがっかりして神に体が弱る前に魂を召し取ってほしいと叫んだ。と弱弱しかった老人が俄に元気がよくなって魂を召し取ってくれという願いを叶えてやるといった。
そう言うなりイブラヒムにとびかかって体から霊魂を引き抜いた。老人は死の天使アズラエルが変装していたのだった。
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税金奇譯
イブラヒムの亡骸は、ヘブロンのマクペラの洞窟の中に、妻のサラの側に葬られた。伝説によるとイブラヒムは本当に死んだのではなくて、永く生き続けたと言われている。
今から二百年ばかり前に、一人のトルコの総督が、税金を取り立てるために、ヘブロンへやってきた。無慈悲な総督でユダヤ人に触れ状を出して、三日のうちに税金を納めないと住んでいる家を叩き潰すといった。
ヘブロンのユダヤ人は貧しく三日で高額の税金を払うことはできるわけがなかった。彼らは神に祈るほかはなかった。
二日目の夜街道に集まって祈りを捧げていたが、真夜中に門を叩く者がありみんな顔を見合わせて、話した。一人の男が門へ向かおうというと二三人一緒に門の所へ行って名前を訊ねた。
すると皆の友達と名乗った。ユダヤ人たちは、やはり怖がって門を開かなかった。すると一本の手が厚い扉を通して、現れ大きな袋を、内側の壁の穴に置き静かに引っ込んだ。
ユダヤ人たちは驚き怪しんで、袋の口を開けてみると、ちょうど税金だけの金貨が入っていた。
ユダヤ人たちは喜び夜の明けるのを待って、総督の館に行って、その足元に金貨を並べた。総督は、金貨の入っていた袋を見ると尻込みをして、袋をどこで手に入れた野か訊ねた。ユダヤ人たちは昨夜の不思議な出来事を話した。
総督は、袋と金貨は実は自分のものだと打ち明けた。話によると真夜中に家来が夜番をしているのに光り輝く衣を纏った男がテントに入ってきてユダヤ人の払う税金だけの金貨を渡すようにいい少しでも体を動かしたり、口を聞いたりすると殺すと脅された。
総督は男を一目見てイブラヒムだと悟った。黙って金を渡すと、相手も黙ってそれを受け取って出て行った。イブラヒムはユダヤ人を救いに来たこと税金を攻め立てた罪を許してほしいということをユダヤ人たちに言った。
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生命の樹の枝
アダムに死ぬ時がきて自分がこのまま世界から消えると思うと恐ろしくなり、考えた末セトに楽園へ行って生命の木の実をもらってくるように言いつけた。瀬戸はその通りに楽園に行って門を守っている天使に頼んだ。
これを聞いて天使は生命の木の実は人間の口にするものではないと神から厳しくいい聞かされていると言って断った。セトが力を落としたのをみると、可哀想に思い神の許しを得て、生命の樹から枝を追ってそれをセトに渡した。
枝には実はなってなかったが、セトは喜んで帰ったがアダムはすでに死んでいた。セトは悲しんだがアダムを葬って墓の上に生命の樹の枝を刺した。樹はやがて根を生やし生繁った。それはノアの洪水の時にも枯れなかった。
ロトの妻が神の罰を受けて岩塩の柱となったときロトも自殺しようとしたが、一人の天使が現れて、ヨルダン河の水を瓶に酌みアダムの墓を訪ねてその上に生えている樹に水を注ぎそれで樹が栄えたら人間にとっての恩恵となるといった。
これを聞いてロトは喜び勇んで、ヨルダン河の水を瓶に満たしてアダムの墓を探しに出た。
その日は猛暑で砂漠の熱風がものを乾燥させていた。ロトは瓶を抱え嶮しい坂道を登って行った。すると路端に一人の巡礼者が倒れていた。
親切なロトは気の毒でたまらず側に跪いて水を与えた。巡礼者は嬉しそうに瓶を口に付けると水を飲み干した。巡礼者は魔王が人間の姿をしているのだった。彼はロトの邪魔をしようとしているのであった。
ロトは瓶の水を飲みつくされて、疲れた足を引きずるようにして、ヨルダン河のほとりに戻って再び瓶一杯に水を満たして旅に出るとまた一人の巡礼者に騙されて水を飲まれた。
そんなことが三度続いたのでさすがのロトも大地に身を投げて苦しんでいるものを助けないと自分の罪が重くなるばかりで助けることにするとアダムの墓の樹に水を注ぐことができないと嘆き神にどうしたらよいか求めた。
そのうちに疲れと悲しみで大地に横になったまま眠りに落ちてしまった。夢に天使が現れて、巡礼者が悪魔で神はロトの親切な心をよく知っているので罪が許されたと伝えた。
ロトは夢の中で、いまだアダムの墓の樹に水を注ぐことができていないといった。天使は慰め、天使たちがロトに代わり水を注いだと言った。
これを聞いてロトは喜んで安らかに死んでいった。アダムの墓の樹は天使に水を注がれて、勢いよくすくすくと生い茂った。
魔王はそれが癪に触って仕方なく、樹を台無しにしようと頻りにいい機会を窺っていた。
ソロモン王の時代になって、大きな神殿を造ることになった。それを知った魔王は、樹を切り倒そうとヒラムという建築師のところに出かけて、神殿を立てる際にアダムの墓の樹を使うようにいった。
ヒラムは驚いて樹は楽園の生命の樹の枝から大きくなった大切なものなので切り倒してどうすると詰った。悪魔は大切な樹だからこそ今度の機会に使い神殿の建築に役だったら神も満足されるといった。
ヒラムはとうとう口車に乗って、人夫たちに言ってアダムの墓の樹を伐り倒させた。人夫たちはそれを伐り倒して大騒ぎをしてゼルサレムに運んできた。しかしヒラムがよくそれを見ると神殿の建造に使えそうではなかった。
彼は初めて魔王に欺かれたことに気が付いて、心苦しさから樹をゼルサレムの東の谷に投げ込ませた。樹は長々とそこに横たわりケドロンの急流を越える橋となった。
それから暫くたって、シェバの女王ベルキスがソロモン王を訪ねることになった。彼女はケドロンの急流にやって来て橋を渡りかけた。
その途端、神の声がして、橋は生命の樹の枝の大きくなったもので橋に足をかけてはいけないと言われた。
これを聞くとベルギスはあまりの畏さに橋の傍に跪いて、恭しく礼拝した。女王を迎えに出たソロモンはなぜ橋を渡らないか訊ねた。ベルギスは橋をさして、この樹はアダムの墓の樹で楽園に生えている生命の樹の枝の生い立ったものだと話した。
ソロモンはこれを聞くと非常に驚き恐れて、すぐに家来たちに言って、綺麗に樹を洗い浄め神殿の宝蔵に大切にしまった。
キリストが殺されるときに十字架となったのは実にこの樹であった。こうしてこの樹は神が教えたように人間全体の大きな恵となった。
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命取りの寝台
ムサにハルンという兄弟がいて大勢の人々を連れて、エジプトからパレスチナの地に移り住むことになった。
ある日の夕方彼らはペトラというところに着いて、野営を張った。ハルンはムサにあれと言ってはるか向こうを指さした。そこは青々とした丘が聳えて、折から沈みかかる陽の光を浴びて輝いていた。ハルンはそこに行こうと言った。
ムサは今日は暮れかかっているから明日にしようといった。翌朝、兄弟は息子たちを連れて、丘の方に歩いて行った。日が照って暑い日だった。丘に着くと洞窟がありこの中は涼しいに違いないと言って洞窟に入って行った。
そこに美しい寝台が一つ据えてあり見ると「この寝台にしっくりと体の合う者が使うように」という文字が彫りつけてあった。そしてかわるがわる横たわってみたが誰にもしっくり合わなかった。
最後にハルンが寝るとまるで自分のために特にこしらえたかと思われるほどうまく体に合った。ハルンは得意になって、文字通り自分の物にするといってそのまま寝転んでいると、出し抜けに見知らぬ男が一人洞窟の中に入って来た。
そして恭しく挨拶して自分は死の天使アズラエルという者で、ハルンの魂を受け取るために神様から遣わされたと言った。ハルンは信心深いので神の言葉にはどんなことがあっても従わねばならぬと思った。
それでも急に親戚たちに別れるのは悲しかったので、ムサに家族のことを頼むと言って泣き出した。死の天使は人々に洞窟の外に出るようにいって、みんな残り惜しげにハルンを眺めやりながら洞窟から出た。
そしてどうなることかと心配していると死の天使の声がして入っても来てもいいと言った。人々が大急ぎで洞窟に入るとハルンはもう息が絶えて、寝台の上に横たわっていた。
人々はハルンの亡骸を洞窟の外に運び出し、綺麗に洗い清めて、祈りを捧げた後で、また担ぎ込んで、静かに寝台の上に寝かした。それからみんなが野営しているところに帰って来て、ハルンは神に召されたことを告げた。
するとみんな大いに驚き怪しんだ。その中でもハルンを好いていたイスラエルの子供たちは、怒ったような目でムサを睨みつけ、今朝まで元気だったものが死ぬはずはないムサがハルンを殺しただろうと詰った。
ムサはびっくりして、死の天使アズラエルが現れてハルンの霊魂をもって行ったと言った。しかしイスラエルの子供たちはムサを殺人者として責め立てるので弱り切った。
それを知った神は大勢の天使たちに言いつけて、ハルンの亡骸を寝台にのせたまま、野営の上の大空を運びまわらせた。そしてハルンがムサに殺されたのではないと告げたのでイスラエルの子供たちもやっと納得した。
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岩屋の計略
イスラエルの偉大な立法家であったムサは神から自身で死にたいと思い墓の中に横たわるまでいつまでも生きて良いという約束をした。
あるときアズラエルが現れて死ぬ時が来たので覚悟をするように言った。ムサは神との約束があるので、アズラエルの言葉に腹を立てて神との約束が違うといって応じなかった。
アズラエルは神の許に引き返して、ムサが従わないと訴えた。これを聞いて神はアズラエルに死にたくなるような約束をムサとし直すようにいった。
アズラエルは再びムサの所に来て死ねば人々が墓に巡礼にやってくるようになり神が今まで以上の恩恵を死後与えてくれると説きたてた。
それでもムサは頑なに死ぬことを受け入れなかった。果てはアズラエルの言葉を聞くのも嫌になって、野営から飛び出した。
そして死海の西まで来ると、一人の羊飼いに出会った。それは、ムサがイスラエルをエジプトから救い出しに出かけるときに自分の羊の世話を頼んだことのある男だった。
羊飼いはムサを見ると驚き怪しんでどうして人々の側を離れてうろついているのか尋ねた。
ムサは死の天使との問答を詳しく話して聞かせた。すると羊飼いは不機嫌そうにこの世に永く生きても苦労と悲しみとを余計に味わうだけで、死んだあと神から大きな恩恵をいただける方がいい。自分は死ぬのが恐ろしくて堪らない。この世が恋しいからではなくてあの世での罰が怖い。ムサは恵があの世にあるのに死ぬのを嫌がるのは間違っていると言った。
ムサは怒って死ぬのが怖いならいつまでも死なないでいろといった。羊飼いはそれが恐ろしい呪いであると気が付かないで、その言葉をありがたがった。
ムサの呪いによって、羊飼いはいつまでも生き続けた。そのうち年を取って元気がなくなって路端に倒れた。友達は、羊飼いが死んだのだと思い地に埋めてしまった。
しかし彼は死ぬことができず墓場から潜りだして、山羊を飼いながら、さまよい歩いた。彼は生きるのが嫌でたまらなくなって高い絶壁から飛び降りたりして自殺を図ったが、死ねなかった。
今でも死海のほとりや、ヨルダンの谷間やチベリアス海の側などにうろついている背が高くて真っ白な髪の毛を振りかぶって、恐ろしいほど顎鬚や爪を伸ばした彼にであう者があると言われる。
そして人が彼に近づこうとすると、彼はいつも姿を隠すのである。
一方ムサは羊飼いと別れてとある丘の側にやってくると、一群の石工が岩を切り開いて一つの部屋をこしらえていた。
ムサは何をしているのか尋ねた。石工たちはこの国の王が宝物を隠すために部屋を造っていると答えた。
その時丁度昼間で陽が照り付けていた。ムサは暑くて堪らないので、岩の中に休ましてもらえないか訊ねた。石工たちはそれを許した。
ムサは自分自身の永久の墓に入るとは思わず部屋に入り床の上に横になると石工の棟梁が入ってきて、お腹が空いただろうと言って林檎を差し出した。
ムサは何の気もなくそれを受け取って口にもっていったかと思うとたちまち息が絶えてしまった。それをみると石工たちがすぐに葬式を澄まして、ムサの体の上に土や石を乗せた。
石工に姿を変えていたのは、天使たちであり棟梁はアズラエルであった。
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王者の貸仕事
ダウド王は神を敬い民を愛する人だった。王は神に対しても、人民に対しても、務めを欠くことを心配した。
そこで自分の働く時間を三つに分けて、一日は神を拝し聖書を研究し、次の日は国の政治を執ることに使い、第三日は家庭の仕事に就くことにした。
王は、自分の家族を支えるために自分の仕事をしていた。王者の身分でそのようにするには理由があった。
ダウドが即位したとき彼は人民たちが、自分が執り行う政治に満足しているかどうかを知りたいと思った。
それには廷臣たちの諂いを聞いただけではだめだと考えて、卑しい者に姿を窶し人々の間に入り彼らの話し合うことに耳を傾けることにした。
ある日、変装して歩いていると、人間に姿を変えた一人の天使が王の側にやって来て話しかけた。天使と知らずにダウドは彼に向かって今度の王様のすることが気に入ったか聞いた。
人間に姿を変えた天使は悪くはないが少し気に食わないと答えた。
王はひやりとしながらどんなところが気に食わないか尋ねた。
すると、王様が公の金で暮らして自分の手でパンを稼いでいるわけじゃないところが気に食わないと答えた。
これを聞くと、ダウド王は心を痛めて神に人民に迷惑をかけないで家族と生きていけるような商売の道を教えてほしいと祈った。
すると神は天使ガブリエルを王の許に遣って、鎧を造る術を教えさせた。その後は王は暇さえあれば鎧を造ることにした。
王の造った鎧はどんな武器でも切り裂くことができないのでどんどん売れて行った。王は一日に一着の割で鎧を造った。それを売ると6000ディナルの金が手に入った。
王はその金を三つに分けて、一部を自分の家の暮らしに当て、他の一部を貧しい人達に施し、残りは神殿を建てる材料を買い込むことに使った。
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誘惑の試し
あるときダウド王はヘブロンにある族長たちの墓に巡礼に出かけた。巡礼を済ませてゼルサレムに帰ると王は神に族長が誘惑にあいそれに打ち勝って恵みを受けたので自分にも同様の誘惑を下してほしい、自分もそれに打ち勝つので族長に与えられたように恩恵を授けてほしいと祈った。
神はこれを聞き届け今日では人類がひどく堕落しているので族長たちに与えた恩恵のほかにもう一つ恩恵を授けるのでそれによって人類を正しく導く必要がある、誘惑の試しが起こる日を待つようにと答えて誘惑の現れる日を教えた。
その日になるとダウド王は一つの塔に閉じ籠った。そして家来たちにどんなことが起きても邪魔しないように言いつけた。
王は塔の中で書物を読んだり、瞑想したりして過ごした。するとたくさんのかわら鳩が現れて、塔の周りを飛び始めた。王はその音を聞きつけて何気なく外を見上げると鳩の中に素晴らしく美しい一羽が混ざっていた。
王は手早くパンのかけらを床にまき散らして、美しい鳩はそれを見つけて、すぐに窓から舞い込んで王の足元でパンをついばみだした。
王は手を伸ばしてこれをとらえようとしたが、どうしても捕まらなかった。鳩は窓のところに飛び上がって、そこに止まった。
王はまた手を伸ばして捕まえようとしたが、窓の外に飛び出してしまった。その後を見送っている王の目に庭を歩いている美しい女が入った。
この女は聖書に現れるウリヤという士官の妻バテシバであった。ダウド王が彼女を愛してウリヤを欺き殺して彼女を自分のものにした始末は聖書にあるとおりである。
それからしばらく経つと、二人の天使が神の命を受けて、人間の姿をして、大地に降ってきた。二人がダウド王の閉じ籠っている塔の門に来ると警固の者たちが入ってはならないといったが二人は平気で壁を乗り越えて、王のいる部屋に入り込んだ。王は驚き怪しんで、なぜ許しを得ずに入ったのかと詰った。
二人の男は平気な顔をして、たとえ話をしに来たと答えた。たとえは一つの町に二人の男が住んでいた。一人は富んで、一人は貧しかった。富んだ男はたくさんの羊と牛を持っていたが、貧しい男は小さい雄羊を一匹持っているだけであった。ところが富んだ者は、自分の家に客があったとき、自分の羊を惜しんで、貧しい男の羊を盗み、それを殺して客をもてなした。
ここまで話すと二人の顔は急に厳しくなり、王にはたとえ話の意味がわかった筈で多くの妻を持つ王がウリヤからただ一人の妻を奪おうとは恐ろしい心根だ。ダビデ王は神の誘惑の試しにすっかり負けてしまったのだといって立ち去った。
ダウドは自分で神に乞い求めた誘惑の試しに失敗したので、身も世もあらぬ気持ちがして、夜となく昼となく泣き続けた。今まで神を讃える王の歌に声を合わせていた山も丘も木も石も獣も鳥も嘆き悲しむようになった。
とうとう神もダウド王の心を憐れんで、一人の予言者を遣って神が王の罪をお許しになったこと、ウリヤに対して犯した罪の許しを乞わなくてはならぬことを告げ知らせた。
王はすぐにウリヤの墓に詣でて心から罪を懺悔して、許しを乞い求めた。すると墓の中から声がして、王のおかげで天国に行けるようになりました。だから喜んであなた様をお許しいたします。といった。
王はウリヤの妻を手に入れるために、ひどい罪を犯したと叫んだこの叫びには一切の返答がなかった。王は非常に力を落として、神に向かって、どうかウリヤが自分を許してくれるようとりなして下さいと祈った。すると墓の中からまた声がして、私はあなたを許します。人間の世界で一人の妻を失った代わりに、天国で千人の妻を恵まれたからと言った。王はやっと気が落ち着いて我が家に帰って行った。
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雄鳩の空威張り
世間でよく「オマルの回教堂」と誤り伝えられてる「岩の円蓋」の南の壁に、小さい大理石の板が二つあって、それについている膚理が丁度一つの甕の左右に二羽の鳥が止まっているような形をしていた。これについて伝説が存在している。
スレイマン・エル・ハキムという王者がある日宮殿の窓に座りながら屋根に止まっている二羽の鳩の話に耳を傾けていた。雄鳩は雌鳩に王者スレイマンも王が自慢している宮殿も大したことはないその気になれば建物なんか蹴倒すことができると言っていた。
スレイマン王は雄鳩になぜそんな途方もない嘘をつくのかと詰った。雄鳩は恐縮したように私は女に話をしている、誰だって女の前では威張って見せずにはいられないものだからきっと私の言葉を許して下さるでしょうといって王に恭しくお辞儀して雌鳩のあとをおって去った。
スレイマンは非常に腹を立てて、二羽の鳩を石にして、「岩屋の円蓋」の南の壁にはめ込んだ。
そして男に対しては妄りに威張ってはならぬという戒めとし、女に対しては、妄りに男に法螺を吹くように仕向けてはならぬという戒めとした。
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破壊の樹
スレイマン王は動物のみならず草木の言うことでもその意味を悟ることができた。
王は今まで見たことない新しい草や木を見つけるたびに、名前や特性を尋ねていた。それに草や木も返答をした。王は世界で初めてその花園の製造者となった。
ある日お寺の庭で珍しい一つの植物を見つけた。王はいつものように、名前を尋ねた。
植物はエル・カールブと答えた。その意味は破壊者という意味であった。王は驚いてなんの役にたつのか尋ねた。すると王の事業を破壊する役にたつと答えた。
これを聞いて王は悲しみ、神は自分が生きている間に自分の事業が滅びる原因をもたらしたのかと叫んだ。もし悪い精霊のジャンどもが人間に先だって王の死を知ったら、その機に人に悪いことを教えるだろうと王は心配し、人間に知られる前にジャンどもに悟られないようにと神に祈った。
王はエル・カーブルという植物を掘り起こして、自分の花園に植え付けて、できるだけその災いを防ぐことにした。王は毎日エル・カールブを見守った。そのうちにこの植物はだんだんと大きくなってきた。
王はこれを伐り倒して、一本の杖をこしらえた。そして奴隷のして使っているジャン達を監督するときにいつもその杖にもたれかかっていた。
こうなる数年前、シェバの王女ベルキスがスレイマンに数々の難しい問題をだした。その一つは曲がりくねった孔の開いている数珠玉にどうして絹糸を通すかという問題だった。
スレイマンは考えた末にうまいことを思いついた。王は一匹の小さい白い虫をとらえて、曲がりくねった孔の開いている数珠玉に絹のいとを通すように頼んだ。虫は王から渡された絹糸を加えて、一方の口から数珠玉の中に這い込んだ。
そして曲がりくねった孔を通って他の口から這い出してきたので、見事に糸が数珠玉に通った。王はその玉をシェバの女王ベルキスに渡すと、王の知恵に感心した。
ところで白い虫は非常に悪戯好きであったので、スレイマンをびっくりさせようと悟られないようにエル・カールブの樹でこしらえた杖に食い入ってだんだんと中身を空ろにしていった。
王はそんなこととは夢にも知らないで、相変わらず杖にもたれながら、悪い精霊のジャンたちを監督していた。そうしているうちに、アズラエルが王の傍に忍び寄って、その霊魂を体から引き抜いた。
こうして王は死んでしまったが、それでも杖にもたれたまま突っ立っていたので、ジャンどもは王が生きていて自分たちの仕事ぶりを見張っているとばかり思っていやいやながら働き続けていた。
その間に白い虫は杖の中身を根気よくかじり続けたので、とうとうすっかり空洞になってしまった。とたちまち王の体の重みで、杖が二つに折れて、王の亡骸が大きな音を立てて、大地に転がった。
それを見たジャンどもは驚きあきれて、王はとっくの昔に死んでいた。うまく騙されて永い間無駄骨を折ったと話し合った。
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動かぬ床石
パレスチナで人々に祈りかけられる聖徒の一人にエル・クードルという人がいた。エル・クードルは地中海と紅海とが出会っているところの近くに「青春の泉」を見出したといわれている。
そしてその泉の水を飲んだので、年を取っては若返っていつまでも生き続けたと信ぜられる。エル・クードルにはたくさんの殿堂が捧げられた。そのうちで最も名高いのは、ベスレヘムに近い所にある「ソロモンの池」の北一マイルの地にある殿堂だった。この殿堂に伝説がある。
昔ギリシャのお坊さんが、エル・クードルの殿堂で行われる聖餐拝受を司っていた。聖餐を受ける人たちはお坊さんの前に跪くとお坊さんが葡萄酒の中にパン片を匙で救って口に入れる。
あるときお坊さんが一人の聖餐拝受者の口にパン片を入れ損ねて匙から取り落とした。パン片はお坊さんの足の上に落ちた。すると足に孔があいて、床石にはっきりと痕をとどめた。
お坊さんの足の傷はどうしても癒えなかった。聖餐であるパン片はキリストの肉であり、染み込んでいる葡萄酒はキリストの血であると考えられたため、その尊いものを足に落としたお坊さんはその罰として傷のために死んでしまった。
それから暫くたって、重い病に悩んでいる一人の男がエル・クードルの殿堂を訪れた。そしてお坊さんに起きた恐ろしいことは知らずにパン片の痕の床石の上に跪いて、病が治るようにと祈り続けた。
するとたちまち彼の病は治った。その場に居合わせた人々はその奇蹟に驚いて、口から口へと語り伝えた。奇蹟の噂はだんだんと広がりロシア王の耳に入った。王は霊験のある床石を辺鄙な所ではなく自分の手許に取り寄せおきたいと思った。
そして一艘の船をシリアのジャファに送った。船の長はジャファからゼルサレムの祭司の長に、ロシア王の手紙を送り届けた。
手紙には床石は直ちに掘り起こして、これをジャファに運ぶように書いていた。ロシア王は日頃からエル・クードルの殿堂の保護者であり恩恵者であったので、祭司の長はすぐにその言葉に従って、不思議な床石をジャファまで送ることにした。
船の長は非常に喜んで、すぐに小舟をおろして、床石を積み込もうとしたが床石は大地から動かず、人々が力を合わせてもどうしても動かなかった。人々はあきらめて祭司の長に知らせた。祭司の長は自分の過ちを悟って床石をエル・クードルの殿堂に運び返した。
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洞穴の老人
パレスチナのカルメル山の北側斜面にエル・クードルの殿堂がある。今日でも、ユダヤ人やキリスト教徒や、イスラム教徒が巡礼して体の病や心の悩みまでいやしてもらおうと祈りに来る。
チャプリン博士がエルサレムに滞在していたころ、一人のユダヤ人少女が博士を訪ねた。彼女は精神病に罹っていた。
病気を診察したチャップリン博士は病は治るが多く日数がかかるだろうと言った。彼女の親類たちは、これを聞いて初めは病院に入れて治療してもらおうと言っていたが暫くすると、彼女を連れて帰ると言い出した。
博士は怪しんで訳を尋ねると、少女は病気ではなく悪魔に取りつかれていてその治療をするということで彼女を連れて帰った。
それから数か月して博士は通りでその少女に出会った。見るとすっかり病気がよくなっているようであった。
博士はどうして治ったか尋ねた。少女は友達が自分をカルメル山につれて行って、エル・クードル様の洞穴に閉じ込め、洞穴で眠ると夜中に光が体を照らしていることに気づき見ると、真っ白い着物を来た一人の老人が立っていて老人は少女に怖がらなくてよい、私の娘よ、と呼びかけて少女の頭に手を乗せると消えてしまった。翌日目が覚めると病気がよくなっていた。エル・クードル様に助けられた。と答えた。
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聖ジョージの竜退治
昔あるところに大きな町があった。町は四面壁に取り囲まれて壁の外に一つの泉があって、澄みきった水が滾々と流れていた。
町に住んでいる人たちは、この泉の水で命をつないでいた。ところが、あるとき一匹の大きな竜が現れて、泉の側に頑張って、町の人々に水を与えることを拒んだ。人々は困って、いじわるを言わずに水を汲ませて下さいと願った。
しかし、竜は頭を振って、水が欲しいなら泉に来るたびに一人の若者か乙女を捧げるようにいった。竜の体には魔王が乗り移っていた。だからこんな無茶なことをいって、町の人たちを苦しめるのであった。
町の人たちは仕方がないので、いろんな手段を巡らせて、竜を殺そうとしたが、どうしてもダメだった。町中から屈強な若者を選り出して、悪竜を射殺させようと、幾度となくもくろんでみたが、竜は口から毒気を噴き出すので、若者たちは矢頃にならぬうちにみんなそれに当たって倒れ死ぬのであった。
悪竜に生贄を捧げるか、みんなが渇き死にをするかとなった。仕方がないので人々は犠牲を捧げては水を貰い受けることにしていた。
こうして若い男、女がだんだんと町から姿を消してとうとう王の姫君ただ一人となった。王と妃は愛する姫を悪竜の餌食にするのがつらかったが、町中の大勢の人々の苦しみ悩む様を見るとどうしても黙っていられなかった。
二人はついに愛しい姫君を竜に捧げることにした。姫は悲しむ人々に送られながら、壁の外に出た。そして恐ろしさに体を震わして、泉の側に歩みよると、待ち構えていた悪竜が、身を翻してさっと躍りかかった。
その瞬間どこからとなく雄々しい姿で手に投槍を持った一人の男が、雪のように真っ白い馬に跨り、黄金の天蓋に蔽われて現れた。それは聖ジョージであった。
聖ジョージは、馬を躍らせて、竜の側に駆け寄り槍で悪竜の双の眼の間に深く突き刺さった。悪竜は大地に倒れて、そのまま息が絶えてしまった。王は非常に喜んで、この勇士に麗しい姫と領地の半分を与えることにした。
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怪しい老人
予言者エリヤはイスラエルの保護者として、しばしばユダヤ人の伝説に現れる。エリヤは人々を慰め、人々の病気を癒すために、幾度となくその姿を表す。あるときにはラビたちの危機を救う、あるときにはちょっとした頭痛を癒すためにすら人間界に乗り出してきた。
今から四百年くらい前のこと、ある安息日エルサレムの町の人たちがあちこちに出払って、町にはただ数人の者が残って居るだけだった。残っている人は昔からの風習で集会を催そうとしていたが、人数を数えると九人しかいなかった。
集会には少なくとも十人そろわなければならないので解散することにして銘々帰って行こうとしているとどこからともなく祈りの肩掛けを纏った尊げな一人の老人が現れて、集会の席についた。
人々は、やっと人数がそろったので大喜びで会の務めを済ました。勤行の後安息日の食事に老人を招待しようと思ってあたりを見回したが、いつの間にかその姿が見えなくなっていた。
人々は驚き今までそこに座っていたのに不思議だ、どこからきてどこへいったのだろうと話し合った。この老人が集会を催すことができずに困っていた人々を助けるためにやってきたエリヤだった。
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間違いの真相
偉大なる立法家ムーサがあるとき神の仕業が変に間違っているように思った。神に過ちがある筈ないとムサは幾度も考え直したが、それでもやはり変に思えてしょうがなかった。彼はとうとう神のなさることが間違いに思えて仕方がなく私の心を明らかにしてくださいと祈った。
神はその祈りに答えて、ある決まった日にある決まった場所に行き一人の男から教えられることになるといった。
ムサは教えられた日に、教えられた場所に行ってみた。彼はそこに一人の尊げな苦行僧認めたので歩み寄って、心の迷いを覚ますように願った。僧はムサの姿をつくづく眺めながら、一緒に旅に出て旅をしている間どんな変なことを見ても、けっしてそのわけを尋ねてはならない。という約束を提示した。
ムサは約束し一緒に旅に出た。陽が暮れかかった頃、二人はとある村に着いた。僧はムサを連れ金持ちの家に泊まることにした。金持ちは親切に二人を迎えて、一頭の羊を屠ってご馳走した。夜更けに二人は大きな部屋に通された。
その部屋には立派な家具が備え付けてあった。ムサは疲れ切っていたので、間もなくぐっすり眠ってしまった。幾時間か眠った後で、彼は連れの僧に呼び覚まされた。夜明けまでにはまだ時間がありムサは寝床から出たくなかった。
ムサは主人が寝ていてはお礼が言えない、お礼を言わないでこそこそ立ち去るのは良くない、なぜ出立を急ぐのかと尋ねた。僧は厳めしい顔をして、訳を尋ねない約束を破るのかと言って出立を促すと部屋の中にあった銀の皿を取り上げ懐に入れた。
ムサは親切な主人のものを取ることに疑問を覚えたが、訳を尋ねない約束を思い出して尋ねるのをやめた。ムサは僧と一緒にその家を出かけた。
その日の夕方、二人は疲れ果てある村に着いた。そして昨日のようにある金持ちの家に泊まることになったが、その金持ちは吝嗇家で食事の用意をさせながら聞こえよがしに二人の文句を独り言のように言っていた。
やがて一人の僕がやって来て、僧とムサとを家の中から連れ出し厩の後ろの洞穴に連れて行きそこに泊まるようにいった。二人は切り刻んだ藁の上に座ってぼんやりしていた。長い間待たせた後で僕が食事を持ってきたが、それは黴の生えたようなパンと腐れかけの橄欖だけだった。ムサは腹が減っていたがどうしてもそれに手をつけることができなかった。
一方僧は平気にそれを食べた。翌朝、ムサはひどく早く目が覚めた。腹が減って悲しい気持がした。苦行僧は心地よさそうにぐっすり寝込んでいた。ムサはそれを揺り動かして起こしてもう出なくてはならないと話したが、僧はまだ早い、主人にお礼を言わないで抜け出してはいけないと言った。
ムサは呆気に取られて黙り込んだ。それからしばらくして僧が起きると前晩の食べ残しをムサの懐にしまわせてお礼を述べに行き僧は恭しくお辞儀して前に泊まったところから拝借した銀の皿を差し出した。ムサは驚いて理由を尋ねようとしたが我慢した。
三日目に二人は草木も生えていない砂原を歩き続けなくてはならなかった。日が暮れかかるころとある河のほとりに出た。苦行僧は川岸にある小屋に入った。それは葦でこしらえたみすぼらしいもので渡し守の寡婦が十三歳の孤児の甥と一緒に住んでいた。
貧しい寡婦は僧とムサとを一生懸命に親切にもてなした。翌朝二人が出立しようとすると寡婦は河の下手に橋が架かっているが壊れかかっていて危ないので甥に道案内をさせるといった。甥の少年が二人と一緒に出かけると寡婦は後ろから二人を無事に渡すように甥に声をかけた。
川岸をくだると、果たして壊れかけた橋が架かっていた。少年が先に渡って、僧がその後に続きムサは後に続いた。
橋の真ん中で僧はいきなり前に立って歩いていた少年の頸をつかんで川の中に投げ込んだ。少年は波に呑まれて溺れ死んでしまった。
これを見ると、ムサはもう堪り兼ねて苦行僧の後ろから大声で罵った。僧は後ろを振り向いて厳しい口調で約束を忘れたことを非難して別れの時がきたと告げ、僧がしたことはみんな神の御心によって定まっていることで最初の金持ちは気のいい男だが、自分を善人だと思いすぎているので低くするため皿をとり、二番目の家の主人は吝嗇だったが、不当な目にあったことが理由で銀の皿を貰って他人に親切になる。最後の少年は生きていたら二年ほどで親切な寡婦を殺し、その翌年にはムサを殺すことになっていた。今のうちに死んだから極楽に行けた。と話して立ち去った。その姿を見送った後でムサは大地に跪いて神を賛美して自分の過ちを悟った。
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王の落馬
エルサレムの北にあるケドロンの谷間に、岩を刻んでこしらえた古い墓がある。すり減ったラテン文字でユリア・サビナと呼ばれたローマの貴族の女の名前が書いている。
それにも拘らず、ユダヤ人たちは、それを正しき人シモンの墓と信じて、これに巡礼する。オニアスの子シモンは、ゼルバベルの時代とマカビーの子たちの時代との間に住んでいた。
彼は心正しく、神の恵みを受けることの篤い人で、みんなから尊び敬われていた。また愛せられ信ぜられていた。正しき人シモンにいろいろの伝説がまつわっている理由である。
トレミ・フィロパトル王が、ある時エルサレムの神殿の中に踏み込んでみたいと言い出しユダヤ人たちは驚き王の前に出て神殿に踏み入ると厳しい罰が降りかかる、一番大切にしている所だからよしてくれなどと言ってみたが聞かなかった。
ユダヤ人たちは一つの場所に集まって神に祈った。その中にひときわ高く響き渡るシモンの祈りがあった。エジプト王は祈りを無視し馬で神殿へ進んだ。
するといきなり馬から転げ落ちた。それを見たユダヤ人たちはシモンの祈りを神様が聞いた、神罰が下ったと叫んだ。護衛はすぐさま王を運び去った。
今から二百年ばかり前、エルサレムに旱魃が起こり長い間雨が少しも降らず、水が枯れ作物は萎え凋んだ。今にも人々は死んでしまいそうだった。
町中の人々は断食をして、ひたすら神に祈った。キリスト教徒もイスラム教徒も、ユダヤ人も、各々自分たちの神殿で勤行を尽くして神の救いを願ったが、ダメだった。
旱魃が続くうちに、ユダヤ人に対する人々の憎しみが、次第に高まって来た。キリスト教徒もイスラム教徒もユダヤ人のせいにした。
とうとう一人のイスラム教徒がトルコからきている総督の館に行き、ユダヤ人がエルサレムに住まわせているから神は怒り雨を降らすことをやめた。処置がなければ町中の人が死ぬと訴えた。
総督は物知りのユダヤ人、ガランチの所に使いを遣って、三日以内に雨が降らなければユダヤ人をエルサレムの町から追い出すと伝えた。
ユダヤ人たちは神の恵みを祈った。しかし二日経っても雨は降らなかった。三日目になると太陽が上らないうちにガランチがユダヤ人たちに雨具の用意をするように伝えた。
ユダヤ人たちは不審な顔をしたがガランチはゆうことを聞くように促した。人々が理由を尋ねた所、シモンが今日の夕暮れ前に雨を降らしてくれるから雨具を纏ってシモンの墓にお礼を言いにいくと言うことだった。
人々はガランチが気が狂ったのだろうと思ったが、ガランチの言うことを聞いて、雨具を身に纏い集まった。ガランチは黙って歩き出し、みんな後について行き行列をなして進んだ。
行列はダマスカス門を通り過ぎ、イスラム教徒の門衛たちはそれを見ると雨が降りそうだと嘲った。ガランチは黙りこくっていた。
シモンの墓に着くと、ガランチは跪いて雨を降らしてもらえるようになったことを感謝した。ユダヤ人たちはガランチが熱心にお礼を言っているので自分たちも心からお礼を捧げだした。
暫くすると曇りだしてきた。ユダヤ人たちが喜んでいると大雨が降りだした。帰りがけにダマスカス門に差し掛かると門衛たちはガランチの足元にひれ伏して、自分たちの無礼を詫びた。
総督もすっかり参って町から追い出すといったことを詫びた。
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不運な詩人
ユダ・ハ・レヴィは名高いユダヤの詩人でトレドの生まれだったが、幼い時から、聖地にあるエルサレムを訪れて見たいと思っていた。仕事が忙しく老人になってから慌ててエルサレムに旅だった。
数日かけて、エルサレムの西の門のバブ・エル・カリル(友の門[友は神の友アブラハム])の前についた。長い年月願っていたエルサレムが目の前に横たわっているので、ユダ・ハ・レヴィはすっかり感激してしまって、町に入る前にひれ伏した。
そしてそこで泣きながら懸命に神に祈りをささげていた。そのうちに武装した騎馬隊が町の方にかけてきた。夢中になったユダ・ハ・レヴィは蹄の音も、砂煙も気づかず祈り続けていた。そしてそのまま馬蹄に踏みつけられて死んでしまった。ユダ・ハ・レヴィはエルサレムを前に中に入ることなく死んでしまった。
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不思議な矢の行方
バビロンの王者ネブカドネザルが若者のころは貧乏で、みすぼらしい身なりだった。ある日予言者エレミヤがネブカドネザルにであった。エレミアは足をとどめてネブカドネザルをじっと見つめていたが、溜息をついてネブカドネザルが今はみすぼらしい身なりだがゆくゆくは大帝国の王者になると独り言のようにつぶやいた。
それを小耳にはさんだネブカドネザルはエレミアの側に歩み寄って、何と言ったか尋ねた。エレミアはネブカドネザルが大帝国の王者になる若者だと言ったと答え、ネブカドネザルは本当かと問いただした。エレミアはきっぱりと間違いないと答えた。
しかし、実現するまでに様々な災いがありエレミアは殺されてしまうかもしれないと付け加えた。これを聞いた若者はエレミアとその友との命は取ってはならない旨の書付を一枚記してエレミアに渡した。
それから多くの年月が経ちネブカドネザルはエレミアが予言したようにバビロンの王者となった。王は軍勢を連れてパレスチナの地に攻め込んできた。これを聞いたエレミアはラムレまで出かけてネブカドネザルにあった。
王はエレミアを見て誰かと尋ねた。エレミアは王が若い頃に、王者となる予言をしたと言って当時の書付を取り出すとネブカドネザルは書付を覚えていて当時予言したエレミアのことも覚えていた。
エレミアは書付にあるように自分の命を保証してくれるか尋ねた。ネブカドネザルは当然だと言って誓った。エレミアはさらに大事なお願いがあるといいエルサレムの町と神殿を破壊することを思いとどまってほしいと頼んだ。
ネブカドネザルはそれはできないと断った。エレミアが理由を尋ねるとネブカドネザルは町と神殿を破壊するのは、神の言いつけでそれは止められないと答えた。エレミアは驚き本当かと尋ねた。ネブカドネザルは嘘はないと言ってその証拠に弓と三本の矢を取り出した。
そして三本の矢をでたらめな方向に放ち三本ともひとりでに向きを変えてあるものに突き立ったら神があるものを破壊すように言っている証拠だと言った。エレミアはそれは間違いないと言い切った。
王は一本を西に、一本を北に一本を南に放ったがどれも向きを変えてエルサレムの神殿の屋根に立った。それを見たエレミアは嘆きの吐息をつき黙って立ち去った。
やがてエルサレムと神殿はネブカドネザルの軍勢によって、すっかり破壊された。王は家来たちに言いつけて神殿の中に備え付けてあった黄金の器具をローマに運ばせた。
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百年の眠り
予言者エレミアはネブカドネザルによって命の保証をされていたがいつも悩ましい嘆きの色を顔に浮かべていた。彼はエルサレムがつぶされたことが堪えられなかった。ネブカドネザル王にエルサレムを破壊させた神の心がどうしてもわからなかった。
あるとき神の声が届きエルサレムはいつの陽か再び建てられる、エレミアはそれを見ることができるといった。エレミアは半ばは信じ半ばは疑うような声で、それがいつかと尋ねた。神はそれは百年後と答えた。
百年後では立て直されたエルサレムを見る喜びはなく私はそれまで生きることができないと言った。神は確かにエレミアはそれを見ることができると言った。
ある日エレミアは無花果を射れた籠を抱えながら、一頭の驢馬を引っ張ってエルサレムの町の跡を通りかかった。見る影もなく叩き潰されているのを見ると神の言ったことが信じられなかった。茫然としていると頭が重くなり、やがて大地に倒れて眠ってしまった。
エレミアは百年目を覚まさずにいた。それから目を覚ましたエレミアは自分の側に驢馬の骸骨を見つけ驚き怪しんだ。彼は何が起きたかわからずそれを見つめていたがだんだんと以前のことが思い出され、自分がエルサレムの跡を通っていて長い間寝ていたことがわかった。
それから何気なく目を上げると、エルサレムの町が立て直されて立派な装いをしているのに気が付いた。エレミアは自分が百年寝ていて自分がエルサレムを見ることができたことを幸福に思った。エルサレムの通りを見ていると驢馬の鳴き声が響いた。
振り返ってみるとたった今まで横たわっていた骸骨にいつの間にか肉が付き、皮ができ、毛が生えて起き上がっていた。
ノアの洪水のとき、驢馬はイブリスに妨げられて罪もないのにノアのために散々に殴られて箱舟に入れなかった。神はそれを気の毒に思って、その子孫であるこの驢馬を復活させて、天国に入れてやることにしたのであった。
エレミアは、驢馬が復活したのを見ると、自分もまた確かに百年間死んで神の恵で復活したに違いないと思った。彼は非常にありがたい気持ちになりその後は前にもまして熱心に神の教えを人々に聞かせることにした。
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皿の使い分け
昔ヨーハという男があった。冗談が好きで滑稽者で愚かなようで賢く、賢いようで愚かであった。ヨーハがまだ若かった頃、母が彼に塩とバターを買ってくるように頼んだ。母はバターを入れるための皿を一枚ヨーハに渡した。塩は売り手が紙に包むと思ったため何も入れ物を渡さなかった。
街場に着くとヨーハはバターを買い商人に皿の上に乗せてもらった。ヨーハは皿を裏返しにして、塩を入れてくれと言った。商人はおかしな男だと思いながら塩を皿の底に乗せた。ヨーハは金を払ってさも得意そうな顔をして帰った。
そして母にここに塩があるというと驚いてバターはどうしたのか尋ねるとヨーハは皿をひっくり返した。塩は床にこぼれてバターは市場で地に落ちてなくしていた。
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計算違い
ヨーハは驢馬の世話をすることになった。彼は十二頭の驢馬に土を背負わせて、町に運ぶように頼まれた。ヨーハは驢馬を持ち主に返す時損をしないように町に出かける前に幾度も数を数えた。
間違いなく十二頭そろっていたので驢馬を追って町に行き、土をおろした。帰りは疲れたので一頭の驢馬に乗って残りの驢馬を追って行った。途中で町を出るときに驢馬の数を数えるのを忘れていた事に気づき、驢馬の背に跨ったまま前にいる驢馬を数えた。
すると何度数えても十一匹しかいなかった。自分が乗っている驢馬を数えていなかったのだ。ヨーハは驚き驢馬の背から降りて一列に並べて数えなおしてみた。するとちゃんと十二匹そろっていた。ヨーハは安心して驢馬に乗って道を急いだ。
暫くすると、数え損ねたかもしれないと思いもう一度驢馬に乗ったまま数を数えると十一匹しかいなかった。そして驢馬から降りて念入りに数えると十二匹になっていた。
ヨーハは何が何やらわからなくなって驢馬に乗ったり驢馬から降りたりしていつまでも同じことを繰り返していた。彼の主人はヨーハがいつまでも帰らないのでまた変なことをしでかしたのだろうかと思い家をでて町の方へ歩いてくると途中でヨーハが驢馬に乗ったり飛び降りたりして汗まみれになって騒いでいるのを見つけた。
主人がヨーハに何をしているのか尋ねると、驢馬の上から数を数えると十一匹で驢馬から降りて数えると十二匹なので不思議だと答えた。主人はこれを聞いて笑い出し、そしてヨーハに自分の乗っている驢馬を数え忘れていることを教えると、ヨーハはなるほどといった。
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釘のたたり
ヨーハは父が死んだあと、小さい家を遺産としてもらい受けた。しかし間もなく金に困って、その家を売り払うことにしたが家全体を売らずにほんの少しの部分だけ自分の物にしておくことにした。彼は壁に大きな釘を打ち込んで、そこだけ自分の物にしておくことにした。
家を買い取った男はおかしなことをする奴だと思ったが、対して邪魔にもならないので、そのまま買い取った家に住み込んだ。ある日ヨーハが豆の入っている袋をもってきて、壁の釘にかけた。家の主人は変なことをすると思ったが苦情をいう程のことでもないので黙っていた。
それから二、三日たつと、ヨーハがまたやって来て、豆の袋を取り除けて、ほかのものの入っている籠を釘にかけた。家の主人はいよいよ変だと思ったが、小言は言わなかった。とまた二、三日立って、ヨーハがやって来て、今度は死んだ猫を釘にぶら下げた。
家の主人は堪り兼ねて、そんな汚い物をひっかけておいては困るといった。するとヨーハはぬからぬ顔をして、家はあなたに売ったが、壁の所は私のものだといった。家の主人はそれはごもっともだがそんなものをぶら下げていると困るといった。
ヨーハは自分の所に自分のものをぶら下げるのがなぜ悪いのか、悪いと思うなら役所に訴え出たらいいと答えた。家の主人は困ってしまい仕方がないから家を買い戻してくれと頼むとヨーハはなかなか承知せずにいた。
色々と相談した末、とうとう話にならないような安い値段でヨーハの手に引き取ってもらった。
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子を産む皿
ある日ヨーハは隣家を訪れて、大きな銅の皿を一日だけ貸してほしいと頼んだ。隣家の男はすぐに承知してそれを貸した。翌日になると、ヨーハは隣家にやって来て、昨日のお礼をいい借りて行った大きな銅の皿に真新しい小さな皿を添えて差し出した。
主人はびっくりして、この小さい皿は私のものではないといったがヨーハは笑って昨日あなたの大きな皿が小さい皿を産んで、子は親の物だからあなたの物でなくてはならないと言った。
主人は目を丸くして、ヨーハを見つめたまま、受け取ろうともしなかった。ヨーハは悲しそうに主人を上知らずで生まれたばかりの赤ん坊を親の側に置くことを嫌がると言った。主人はヨーハの気が狂ったと思った。
そこでことを荒立てると面倒だと考えて、その小皿は親皿のもとに引き取ると行った。それから数日経つとまたヨーハが訪れて、大きな銅の甕を少しの間貸してほしいと言った。
隣家の男は先日のことがあるので喜んで貸してやった。すると今度はいつまでたっても返しに来ないので、使いをやって催促をすると、ヨーハは悲しそうな顔をして、使いの者に、借りていた甕は死んでしまった。返したくてもできない。と答えた。
使いの者からこれを聞いた隣家の男は、火のように怒って、ヨーハの家に怒鳴り込んで金でできた甕が死ぬなんてことはないから冗談を言わずに返してほしいといった。
ヨーハは澄まして、馬鹿な事ではなく金でできた皿が子を産んだから金でできた甕も死ぬのはおかしくないと答えた。隣家の男は皿が子を産んだことを認めて、小皿を自分の家に引き取っているので、いまさら甕が死んだことを認めない訳に行かず、小皿と甕を引き換えたことになり大損をした。
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キリストに打つ釘
あるとき聖母マリアが岩洞の中で祈っていると雷の音がして、稲妻がさっと目を射った。マリアは驚いて外を覗きだすと、大空はどこもかしこも真っ黒くなっていて、星屑は姿を消し、月は地に滲んだような色をしていた。
マリアは驚き怪しんで、左を見たり右を眺めたりしていると、聖ジョンが涙を流しながらやってきた。彼の手のハンカチは血の痕が滲んでいた。マリアはびっくりして、聖ジョンがどうして泣いていて主が殴ったのか、詩篇をなくしたのかと尋ねた。
聖ジョンはどちらも違うと答え、マリアはどうしてなくのか尋ね、聖ジョンはマリアの心臓が壊れると言って自分には話をする口も下もないような気がすると答えた。
マリアは熱心に促した。聖ジョンはユダヤ人たちが主を捕まえて連れ去ったことを話すと、マリアはたちまち大地に倒れて気を失った。聖ジョンやその他の人々は大騒ぎをして、瓶の水をマリアの顔に注ぎかけて、介抱していた。暫くすると、マリアは息を吹き返した。
マリアはキリストを崇めるものはみんなついてきてくれ、自分はキリストが殺されないように見つけ出さなければならないと言って洞穴から駆け出した。キリストを愛しキリストを讃える者は、我も我もとマリアに従うことになった。
マリアの先に立って歩くものが五千人、マリアの後ろについていくものが四千人、列になって、釘製造人の家の戸口を通った。彼は一生懸命になって釘をこしらえていた。マリアは彼に何をしているのか尋ねた。
釘製造人はユダヤ人が注文した釘をこしらえている。ユダヤ人たちは四本でいいといったが五本造っていると答えた。マリアは釘は何に使うのか尋ねた。
釘製造人はキリストの体に打ち込むためで、二本は手に、二本は足に、残りの一番鋭く尖っている奴は、肺の臓に打ち込むと答えた。
マリアは、気が狂ったように、叫び大地に倒れて気を失った。
人々は驚き騒いで、瓶の水をマリアの体にどんどん注ぎかけた。そうしているうちにマリアはやっと正気になり、釘製造人に呪いあれ、工場の金屑刎ね、パン皿にパンを刎ね、肌着にボタンを刎ねれと呪った。
そして呪いはやがて実現して、無情な釘製造人は死ぬまで苦しまねばならなかった。
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さまよえるユダヤ人(その一)
祭司の長と民の長老が語らい合って、イエスを縛り上げて、方伯ポンテオ・ピラトのもとに引っ張っていった。ピラトは、イエスを縛って来たユダヤ人たちに向かって、イエスをどうしろというのかといった。
ユダヤ人たちは十字架にかけるように言った。ピラトは一体イエスがどんな悪いことをしたのかと尋ねた。ユダヤ人たちは、イエスの罪をあげかねて、ただますます喧しく十字架にかけるように迫った。
ピラトはイエスに罪がないと見て、ユダヤ人たちに、イエスをかえすから自分たちの掟によって捌くようにいった。
しかしユダヤ人の叫び声が激しくなって、心の弱いピラトはとうとうイエスを十字架にかけよと言いつけた。イエスは、重たい十字架を背負ったまま、処刑場に引かれて行った。途中で彼は靴製造人の家の前を通り過ぎた。
靴製造人は家の者に声をかけて、イエスが処刑場に引かれていくからどんな男か見ておくといいと叫んだ。これを聞いて家中の者がどやどやと表に駆け出してきた。靴製造人は小さい子供を抱き上げて、戸口の所に立っていた。
ユダヤ人たちは得意そうな顔をして、イエスを引っ張っていく。十字架の重みに喘ぎ苦しんでいるイエスは靴製造人の家の戸口の前に来ると、そこに立ち止まって、暫く体を休めようとした。
靴製造人はそれを見ると、声を荒くして、そんなところに立ち止まっては困るからとっとと行くようにいった。イエスは彼の顔を見上げて、ほんのしばらく休ませてくれと頼んだ。
しかし靴製造人は仲間のユダヤ人の機嫌を取りたかったので、イエスの言葉を聞くと、かっと腹を立てて、行けと言ったら行けと怒鳴りつけた。
イエスはその言葉の通りしたがってまた歩き出したが、靴製造人の方を振り向いて、自分はこれから休むことになるがあなたは最後の審判の日まで歩き続けなくてはならぬと言った。
これを聞くと靴製造人はなんとなく体中が打ち震うような気がして、抱いていた子供をおろして、ふらふらとイエスの後について歩き出した。彼は処刑場迄ついて行って、イエスの無惨な最後を目にした。
たちまち彼の心は狂ったようになって、二度とエルサレムに引き返すこともできず、妻や子の顔を見ることもできず、さまよい出した。彼は悲しみに満ちた巡礼者のように、国から国へと歩き廻った。
しかし、いくら歩き廻っても、心の安らぎを得ることができずに最後の審判の日まで世界中をうろつき回らねばならぬ。
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さまよえるユダヤ人(その二)
ピラトがイエスを十字架にかける由を申し渡すと、訴え出たユダヤ人たちは、意気揚々としてイエスをピラトの広間から引っ張り出した。
戸口に立っていた門番のカルタフィラスという男がいきなり手を挙げて、イエスの背を殴りつけながら、何をぐずぐずしているのかといって嘲り笑った。
するとイエスは振り返ってカルタフィラスを見つめながら、私が帰ってくるまで待っているだろうと言った。
その言葉の通りに、カルタフィラスはイエスが帰ってくるまで、いつまでも生き永らえて待っていなくてはならなくなった。
イエスが十字架にかかったとき、カルタフィラスは丁度三十歳であった。そしてだんだんと年をとって百歳になる度に若返って、再び三十歳になる。こうして彼は苦しみ悩みながら、いつまでも生きていなくてはならなかった。
イエスが死んでカトリック教が盛んになったとき、カルタフィラスはアナニアスから洗礼を受けて、ヨセフと名乗るようになった。
ヨセフは、アルメニアやその他の東の国に住んでいて、いつも僧正たちの中に混じって、つつましやかな日々を送っている。彼は至って無口で、慎み深くふるまっている。
僧正たちや、その他信心深い人たちは、ヨセフがキリストの時代から生き続けて、いろんな出来事を見ているのを知って、主の十字架の上で悩みをはなしてくれというものや主はどんな様子で復活せられたかというものもいた。
その場合ヨセフは、日頃の沈黙を破って、話し出すのだが、決して笑ったり浮き浮きした気持ちになったりすることはなかった。
ヨセフは、キリストの言葉に従って、心静かに最後の審判の日を待っている。そしてその日が来た時に、イエスがなおも彼に対して怒り続けていることを心から恐れている。
ヨセフの噂が四方に伝わると、世界中の人々が彼の許に訪ねてきて、宗教上の疑いについて、いろんな質問をするようになった。
ヨセフは相手が信心深い人であることを見抜くと、いつもつつましやかな態度で親切にその疑いを解いてくれるのであった。
人々が喜んで、いろんな物を彼に送ろうとするとそれをどうしても受け取らなかった。そしてほんの少しばかりの食物と粗末な着物とで心から満足していた。
彼は自分が無知であったために、救世主の人なりを見抜くことができないで、とんだ罪を犯してしまったことをよく知っている。しかし同時にイエスが己のて気に苦しめられながらも、彼らのために神に祈って許しを乞うたことも知っている。
だから最後の審判の日が来たら、自分の罪も無知から来たというわけで、多分許されるであろうと、そればかりを頼りにして、永い一生を送り続けている。
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